となって、落ちて来い。(合掌す。)
晃 大事な身体《からだ》だ、山沢は遁《に》げい、遁げい。
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と呼ばわりながら、真前《まっさき》に石段を上れる伝吉と、二打三打《ふたうちみうち》、稲妻のごとく、チャリリと合す。
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伝吉退く。時に礫《つぶて》をなげうつものあり。
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晃 (額に傷《きずつ》き血を圧《おさ》えて)あッ。(と鎌を取落す。)
百合 (サソクにその鎌を拾い)皆さん、私が死にます、言分《いいぶん》はござんすまい。(と云うより早く胸さきを、かッしと切る。)
晃 しまった!(と鎌を捩取《もぎと》る。)
百合 晃さん――御無事で――晃さん。(とがっくり落入る。)
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一同|色沮《いろはば》みて茫然《ぼうぜん》たり。
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晃 一人は遣らん! 茨《いばら》の道は負《おぶ》って通る。冥土《めいど》で待てよ。(と立直る。お百合を抱《いだ》ける、学円と面《おもて》を見合せ)何時だ。(と極めて冷静に聞く
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