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片山家《かたやまが》の暮れ行《ゆ》く風情、茅屋《かやや》の低き納戸の障子に灯影《ほかげ》映る。
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学円 この上、晩飯の御難題は言出しませんが、いかんとも腹が空いた。
百合 ほほ。(と打笑《うちえ》み)筧《かけひ》の下に、梨《ありのみ》が冷《ひや》してござんす、上げましょう。(と夕顔の蔭に立廻る。)
学円 (がぶがぶと茶を呑《の》み、衣兜《ポケット》から扇子を取って、煽《あお》いだのを、と翳《かざ》して見つつ)おお、咲きました。貴女《あなた》の顔を見るように。
百合 ええ?(聞返す。)
学円 いや、髪の色を見るように。
百合 もう、年をとりますと、花どころではございません。早く干瓢《かんぴょう》にでもなりますれば、……とそればかりを待っております。
学円 小刀《ナイフ》をこれへお遣わし……私《わし》が剥《む》きます。――お世話を掛けてはかえって気遣いな。どれどれ……旅の事欠け、不器用ながら、梨《なし》の皮ぐらいは、うまく剥きます。おおおお氷よりよく冷えた。玉を削るとはこの事じゃろう。
百合 旅を遊ばす御
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