《い》きらるるか。稲は活きても人は餓《う》える、水は湧いても人は渇《かつ》える。……無法な事を仕出《しいだ》して、諸君が萩原夫婦を追うて、鐘を撞《つ》く約束を怠って、万一、地《つち》が泥海になったらどうする! 六ヶ村八千と言わるるか、その多くの生命は、諸君が自ら失うのじゃ。同じ迷信と言うなら言え。夫婦|仲睦《なかむつま》じく、一生|埋木《うもれぎ》となるまでも、鐘楼《しょうろう》を守るにおいては、自分も心を傷《きずつ》けず、何等世間に害がない。
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管八 黙れ、煩《うるさ》い。汝《うぬ》が勝手な事を言うな。
初雄 一体君は何ものですか。
学円 私《わし》か、私は萩原の親友じゃ。
宅膳 藪《やぶ》から坊主が何を吐《ぬか》す。
学円 いかにも坊主じゃ、本願寺派の坊主で、そして、文学士、京都大学の教授じゃ。山沢学円と云うものです。名告《なの》るのも恥入りますが、この国は真宗門徒信仰の淵源地《えんげんち》じゃ。諸君のなかには同じ宗門のよしみで、同情を下さる方もあろうかと思うて云います。(教員に)君は学校の先生か、同一《おなじ》
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