顕《あらわ》す。
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管八 (悪く沈んだ声して)おいおい、おい待て。
晃 (構わず、つかつかと行く。)
管八 待て、こら!
晃 何だ。(と衝《つつ》と返す。)
管八 汝《きさま》、村のものは置いて行《ゆ》け。
晃 塵《ちり》ひとっ葉《ぱ》も持っちゃ行かんよ。
管八 その婦《おんな》は村のものだ。一所に連れて行《ゆ》く事は出来ないのだ。
晃 いや、この百合は俺の家内だ。
嘉伝次 黙りなさい。村のものじゃわい。
晃 どこのものでも差支えん、百合は来たいから一所に来る……留《とどま》りたければ留るんだ。それ見ろ、萩原に縋《すが》って離れやせん。(微笑して)置いて行《ゆ》けば百合は死のう……人は、心のままに活《い》きねばならない。お前たちどもに分るものか。さあ、行《ゆ》こう。
宅膳 (のしと進み)これこれ若いもの、無分別はためにならんぞ。……私《わし》が姪《めい》は、ただこの村のものばかりではない。一郡六ヶ村、八千の人の生命《いのち》じゃ、雨乞《あまごい》の犠牲《にえ》にしてな。それじゃに、……その犠牲の女を連れて行《ゆ》くの
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