ですな、名は権助と云うかどうかは分からんですが、ええん!
村二三 ひやひや。(と云う。)
村四五 撞木野郎《しゅもくやろう》、丸太棒《まるたんぼう》。(と怒鳴る。)
初雄 えへん、君はこの村において、肥料《こやし》の糟《かす》にもならない、更に、あえて、しかしてその、いささかも用のない人です。故にです、故にですな、我々一統が、鐘を、お撞きになるのを、お断りを、しますと同時に、村を、お立ち去りの事を宣告するのであるです。
村二三 そうだ、そうだとも。
晃 望む処だ。……鐘を守るとも守るまいとも、勝手にしろと言わるるから、俺には約束がある……義に依《よっ》て守っていたんだ。鳴らすなと言うに、誰がすき好んで鐘を撞くか。勿論、即時にここを去る。
村四五 出て行《ゆ》け、出て行け。(と異口同音《くちぐち》。)
晃 お百合|行《ゆ》こう。――(そのいそいそ見繕いするを見て)支度が要るか、跣足《はだし》で来い。茨《いばら》の路は負《おぶ》って通る。(と手を引く。)
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お百合その袖に庇《かば》われて、大勢の前を行《ゆ》く。――忍んで様子を見たる、学円、この時|密《そっ》とその姿を
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