下げ]
百合、のび上って、晃が紐《ひも》を押え頸《くび》に掛けたる小笠《おがさ》を取り、瓢を引く。晃はなすを、受け取って框《かまち》におく。すぐに、鎌を取ろうとする。晃、手を振って放さず、お百合、しかとその晃の鎌を持つ手に縋りいる。
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晃 帰れ、君たちア何をしている。
初雄 更《あらた》めて断るですがね、君、お気の毒だけれども、もう、村を立去ってくれたまえ。
晃 俺をこの村に置かんと云うのか。
初雄 しかりです。――御承知でもあるでしょう、また御承知がなければ、恐らく白痴《ばか》と言わんけりゃならんですが、この旱《ひでり》です、旱魃《かんばつ》です。……一滴の雨といえども、千金、むしろ万金の場合にですな。君が迷信さるる処のその鐘《つりがね》はです。一度でも鳴らさない時はすなわちその、村が湖になると云うです。湖になる……結構ですな。望む処である、です、から、して、からに、そのすなわちです。今夜からしてお撞《つ》きなさらない事にしたいのです。鐘を撞かん事になってみる日になってみると、いたしてから、その、鐘を撞くための君は
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