ころや》りに、子守唄をうたいまする。
白雪 恋しい人と分れている時は、うたを唄えば紛れるものかえ。
姥 おおせの通りでござります。
一同 姫様《ひいさま》、遊ばして御覧じませぬか。
白雪 思いせまって、つい忘れた。……私がこの村を沈めたら、美しい人の生命《いのち》もあるまい。鐘を撞《つ》けば仇《あだ》だけれども、(と石段を静《しずか》に下りつつ)この家《や》の二人は、嫉《ねたま》しいが、羨《うらやま》しい。姥、おとなしゅうして、あやかろうな。
姥 (はらはらと落涙して)お嬉しゅう存じまする。
白雪 (椿に)お前も唄うかい。
椿 はい、いろいろのを存じております。
鯉七 いや、お腰元衆、いろいろ知ったは結構だが、近ごろはやる==池の鯉よ、緋鯉《ひごい》よ、早く出て麩《ふ》を食え==なぞと、馬鹿にしたようなのはお唄いなさるな、失礼千万、御機嫌を損じよう。
椿 まあ……お前さんが、身勝手な。
一同 (どっと笑う。)――
白雪 人形抱いて、私も唄おう……剣ヶ峰のおつかい。
鯰入 はあ、はあ、はッ。
白雪 お返事を上げよう……一所に――椿や、文箱《ふばこ》をお預り。――衆《みな》も御苦労であった
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