靴に雲もつけますまい。人は死のうと、溺《おぼ》れようと、峰は崩れよ、麓《ふもと》は埋れよ。剣ヶ峰まで、ただ一飛び。……この鐘を撞《つ》く間《うち》に、盟誓をお破り遊ばすと、諸神、諸仏が即座のお祟《たた》り、それを何となされます!
鯉七 当国には、板取《いたどり》、帰《かえる》、九頭竜《くずりゅう》の流《ながれ》を合せて、日野川の大河。
蟹五郎 美濃の国には、名だたる揖斐《いび》川。
姥 二個《ふたつ》の川の御支配遊ばす。
椿 百万石のお姫様。
姥 我ままは……
一同 相成りませぬ。
姥 お身体《からだ》。
一同 大事にござります。
白雪 ええ、煩《うるさ》いな、お前たち。義理も仁義も心得て、長生《ながいき》したくば勝手におし。……生命《いのち》のために恋は棄てない。お退《ど》き、お退き。
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一同、入乱れて、遮り留《とど》むるを、振払い、掻《か》い潜《くぐ》って、果《はて》は真中《まんなか》に取籠《とりこ》められる。
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お退きというに、え……
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とじれて、鉄杖《てつじょう》を抜けば、白銀《しろがね》の色、月に輝き、一同は、
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