いて、鐘楼の下に出づ。打仰ぎ鐘を眺め、
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
学円 今朝、明六《あけむ》つの橋を渡って、ここで暮六つの鐘を聞いた。……
[#ここから2字下げ]
お百合は笊《ざる》に米をうつす。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
学円 やあ、お精が出ます。(と声を掛く。)
百合 はい。(見向く。)
学円 途中、畷《なわて》の竹藪《たけやぶ》の処へ出て……暗くなった処で、今しがた聞きました。時を打ったはこの鐘でしょうな。
百合 さようでございます。
学円 音も尊い!……立派な鐘じゃ。鐘楼《つりがねどう》へ上《あが》ってみても差支えはありませんか。
百合 (笊《ざる》を抱えて立つ)ええ、大事ござんせん。けれども貴客《あなた》、御串戯《ごじょうだん》に、お杖やなんぞでお敲《たた》き遊ばしては不可《いけ》ません。
学円 西瓜《すいか》を買うのではありません。決して敲いてはみますまい。(笑う。)
百合 御串戯おっしゃいます。……いいえ、悪戯《いたずら》を遊ばすようなお方とは、お見受け申しはしませんけれど、その鐘
前へ
次へ
全76ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング