は心細い。私はそれが心配でなりません。
晃 流《ながれ》が細ったって構うものか。お前こそ、その上夏痩せをしないが可《い》い。お百合さん、その夕顔の花に、ちょっと手を触ってみないか。
百合 はい、どういたすのでございますか。
晃 花にも葉にも露があろうね。
百合 ああ冷い。水の手にも涼しいほど、しっとり花が濡れましたよ。
晃 世間の人には金が要ろう、田地も要ろう、雨もなければなるまいが、我々二人|活《い》きるには、百日照っても乾きはしない。その、露があれば沢山なんだ。(戸外《おもて》に向える障子を閉《とざ》す。)
百合 貴方、お暑うございましょう。開けておおきなさいましても、もう、そちこち人も通りますまい。
晃 何、更《あらたま》って、そんな心配をするものか。……晩方|閉込《とじこ》んで一燻《ひといぶ》し燻しておくと、蚊が大分楽になるよ。
[#ここから2字下げ]
時に蚊遣《かやり》の煙なびく、
学円。日に焼けたるパナマ帽子、背広の服、落着《おちつき》のある人体《じんてい》なり。風呂敷包を斜《はす》に背《しょ》い、脚絆草鞋穿《きゃはんわらじばき》、杖《ステッキ》づくりの洋傘《こうもり》をつ
前へ 次へ
全76ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング