た見も知らぬ婦《おんな》から、十里|前《さき》の一里塚の松の下の婦《おんな》へ、と手紙を一通ことづかりし事あり。途中気懸りになって、密《そっ》とその封じ目を切って見たれば、==妹御へ、一《ひとつ》、この馬士の腸《はらわた》一組参らせ候《そろ》==としたためられた――何も知らずに渡そうものなら、腹を割《さ》かるる処であったの。
鯰入 はあ、(とどうと尻餅つく。)
蟹五郎 お笑止だ。かッかッかッ。
鯉七 幸《さいわい》、五郎が鋏《はさみ》を持ちます……密《そっ》と封を切って、御覧が可《よ》かろう。
鯰入 やあ、何と、……それを頼みたいばッかりに恥を曝《さら》した世迷言《よまいごと》じゃ。……嬉しや、大目に見て下さるかのう。
蟹五郎 もっとも、もっとも。
鯉七 また……(と声を密《ひそ》めて)恋し床《ゆか》しのお文なれば、そりゃ、われわれどもがなお見たい。
鯰入 (わななきながら、文箱を押頂き、紐を解く。)
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鯉、蟹ひしと寄る。蓋《ふた》を放って斉《ひと》しく見る。
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鯰入 やあ!
鯉七 ええええ。
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