蟹五郎 やあやあやあ!
鯰入 文箱《ふばこ》の中は水ばかりよ。
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と云う時、さっと、清き水流れ溢《あふ》る。
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鯉七 あれあれあれ、姫様《ひいさま》が。
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はっと鯰入とともに泳ぐ形に腹ばいになる。蟹は跪《ひざまず》いて手を支《つか》う。――迫上《せりあげ》にて――
夜叉ヶ池の白雪姫。雪なす羅《うすもの》、水色の地に紅《くれない》の焔《ほのお》を染めたる襲衣《したがさね》、黒漆《こくしつ》に銀泥《ぎんでい》、鱗《うろこ》の帯、下締《したじめ》なし、裳《もすそ》をすらりと、黒髪長く、丈に余る。銀《しろがね》の靴をはき、帯腰に玉のごとく光輝く鉄杖《てつじょう》をはさみ持てり。両手にひろげし玉章《たまずさ》を颯《さっ》と繰落して、地摺《ちずり》に取る。
右に、湯尾峠の万年姥《まんねんうば》。針のごとき白髪《しらが》、朽葉色《くちばいろ》の帷子《かたびら》、赤前垂《あかまえだれ》。
左に、腰元、木の芽峠の奥山椿、萌黄《もえぎ》の紋付《もんつき》、文金の高髷《たかまげ》に緋《ひ》の乙女
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