ここまで辿《たど》って、いざ、お池へ参ると思えば、急にこの文箱《ふばこ》が、身にこたえて、ずんと重うなった。その事じゃ。
鯉七 恋の重荷と言いますの。お心入れの御状なれば、池に近し、御双方お気が通って、自然と文箱に籠《こも》りましたか。
蟹五郎 またかい。姫様《ひいさま》から、御坊へお引出ものなさる。……あの、黄金《こがね》白銀《しろがね》、米、粟《あわ》の湧《わき》こぼれる、石臼《いしうす》の重量《おもみ》が響きますかい。
鯰入 (悄然《しょうぜん》として)いや、私《わし》が身に応《こた》えた処は、こりゃ虫が知らすと見えました。御褒美《ごほうび》に遣わさるる石臼なれば可《よ》けれども==この坊主を輪切りにして、スッポン煮を賞翫《しょうがん》あれ、姫、お昼寝の御目覚ましに==と記してあろうも計られぬ。わあ、可恐《おそろ》しや。(とわなわなと蘆の杖とともにふるい出す。)
鯉七 何でまた、そのような飛んだ事を? 御坊。……
鯰入 いやいや、急に文箱《ふばこ》の重いにつけて、ふと思い出いた私《わし》が身の罪科がござる。さて、言い兼ねましたが打開けて恥を申そう。(と頸《うなじ》をすくめて、頭
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