》が控えた。名のって通れ。
鯰入 (杖を袖にまき熟《じっ》と視《み》て)さては縁のない衆生でないの。……これは、北陸道無双の霊山、白山、剣ヶ峰千蛇ヶ池の御公達《ごきんだち》より、当国、三国ヶ岳夜叉ヶ池の姫君へ、文づかいに参るものじゃ。
鯉七 おお、聞及んだ黒和尚《くろおしょう》。
蟹五郎 鯰入は御坊《ごぼう》かい。
鯰入 これは、いずれも姫君のお身内な。夜叉ヶ池の御眷属《ごけんぞく》か。よい所で出会いました、案内を頼みましょう。
蟹五郎 お使《つかい》、御苦労です。
鯉七 ちと申つかった事があって、里へ参る路ではあれども、若君のお使、何は措《お》いてもお供しょう。姫様、お喜びの顔が目に見える。われらもお庇《かげ》で面目を施します、さあ、御坊。
蟹五郎 さあ、御坊。
鯰入 (ふと、くなくなとなって得《え》進まず。)しばらく。まず、しばらく。……
鯉七 御坊、お草臥《くたび》れなら、手を取りましょう。
蟹五郎 何と腰を押そうかい。
鯰入 いやいや疲れはしませぬ。尾鰭《おひれ》はのらのらと跳ねるなれども、ここに、ふと、世にも気懸《きがか》りが出来たじゃまで。
鯉七 気懸りとは? 御坊。
鯰入
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