て鳴ると悪いね、田圃《たんぼ》の広場へ出て見ようよ。(と小屋のうらに廻って入る。)
[#ここから2字下げ]
鯰入《ねんにゅう》。花道より、濃い鼠すかしの頭巾《ずきん》、面《つら》一面に黒し。白き二根《にこん》の髯《ひげ》、鼻下より左右にわかれて長く裾《すそ》まで垂る。墨染の法衣《ころも》を絡《まと》い、鰭《ひれ》の形したる鼠の足袋。一本《ひともと》の蘆《あし》を杖《つえ》つき、片手に緋総《ひぶさ》結びたる、美しき文箱《ふばこ》を捧げて、ふらふらと出で来《きた》る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
鯰入 遥々《はるばる》と参った。……もっての外の旱魃《かんばつ》なれば、思うたより道中難儀じゃ。(と遥《はるか》に仰いで)はあ、争われぬ、峰の空に水気が立つ。嬉しや、……夜叉ヶ池は、あれに近い。(と辿《たど》り寄る。)
[#ここから2字下げ]
鯉、蟹、前途《ゆくて》に立顕《たちあらわ》る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
鯉七 誰だ。これへ来たは何ものだ。
蟹五郎 お山の池の一の関、藪沢《やぶさわ》の関守《せきもり
前へ 次へ
全76ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング