さかべ、化猫は赤手拭《あかてぬぐい》、篠田《しのだ》に葛《くず》の葉、野干平《やかんべい》、古狸の腹鼓《はらつづみ》、ポコポン、ポコポン、コリャ、ポンポコポン、笛に雨を呼び、酒買小僧、鉄漿着女《かねつけおんな》の、けたけた笑《わらい》、里の男は、のっぺらぼう。
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と唄――
与十《よじゅう》、竹の小笠《おがさ》を仰向《あおむ》けに、鯉《こい》を一尾、嬉しそうな顔して見て、ニヤニヤと笑って出づ。
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与十 大《でか》い事をしたぞ。へい、雪さ豊年の兆《しるし》だちゅう、旱《ひでり》は魚《うお》の当りだんべい。大沼小沼が干たせいか、じょんじょろ水に、びちゃびちゃと泳いだ処を、ちょろりと掬《しゃく》った。……(鯉跳ねる)わい! 銀の鱗《うろこ》だ。ずずんと重い。四貫目あるべい。村長様が、大囲炉裡《おおいろり》の自在竹に掛った滝登りより、えッと大《でっけ》え。こりゃ己《おら》がで食おうより、村会議員の髯《ひげ》どのに売るべいわさ。やれ、鯉。髯どのに身売をしろじゃ。値になれ、値になれ。(鯉跳ねる)ふあ、銀の鱗だ
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