の重宝《ちょうほう》と云う瓢箪《ひょうたん》を出したり、酒を買う。――それから鎌を貸しな、滅多に人の通わぬ処、路はあっても熊笹ぐらいは切らざあなるまい。……早くおし。
百合 はい、はい。
学円 やあ、どぎどぎと鋭いな。(と鎌を見る。)
晃 月影に……(空へかざす)なお光るんだ。これでも鎌を研《と》ぐことを覚えたぜ。――こっちだ、こっちだ。(と先へ立つ。)
百合 お気をつけ遊ばせよ。(とうるみ声にて、送り出づる時、可愛《かわゆ》き人形袖にあり。)
晃 何だい、こんなもの。(見返る。)
百合 太郎がちょっとお見送り。(と袖でしめつつ)小父《おじ》ちゃんもお早くお帰りなさいまし、坊やが寂しゅうございます。(と云いながら、学円の顔をみまもり、小家《こや》の内を指し、うつむいてほろりとする。)
学円 (庇《かば》う状《さま》に手を挙げて、また涙ぐみ)御道理《ごもっとも》じゃ、が、大丈夫、夢にも、そんな事が、貴女、(と云って晃に向きかえ)私《わし》に逢うて、里心が出て、君がこれなり帰るまいか、という御心配じゃ。
百合 (きまりわるげに、つと背向《せむき》になる。)
晃 ああ、それで先刻《さっき》か
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