おと)貴方《あなた》、直ぐにとおっしゃって、……お支度は、……
晃 土橋の煮染屋《にしめや》で竹の皮づつみと遣《や》らかす、その方が早手廻《はやてまわし》だ。鰊《にしん》の煮びたし、焼どうふ、可《よ》かろう、山沢。
学円 結構じゃ。
晃 事が決れば早いが可《い》い。源佐衛門は草履で可《よ》し、最明時《さいみょうじ》どのは、お草鞋《わらじ》、お草鞋。
学円 やあ、おもしろい。奥さん、いずれ帰途《かえり》には寄せて頂く。私は味噌汁が大好きです。小菜《こな》を入れて食べさして発《たた》せて下さい。時に、帰途はいつになろう。……
晃 さあ、夜《よ》が短い。明方になろうも知れん。
学円 明けがた……は可《い》いが、(と草鞋を穿《は》きながら)待て待て、一所に気軽に飛出して、今夜、丑満つの鐘はどうするのじゃ。
晃 百合が心得ておる。先代弥太兵衛と違う。仙人ではない、生身の人間。病気もする、百合が時々代るんだよ。
学円 では、池のあたりで聞きましょう。――奥方しっかり願います。
百合 はい、内をお忘れなさいませんように、私は一生懸命に。(と涙声にて云う。)
晃 ……おい、あの、弥太兵衛が譲りの、お家
前へ
次へ
全76ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング