んだ。山沢、野菜は食わしたいぜ、そりゃ、甘《うま》いぞ。
学円 奥方、お立ちなさるな。トそこでじゃな、萩原、私《わし》は志した通り、これから夜を掛けて夜叉ヶ池を見に行《ゆ》く気じゃ。種々《いろいろ》不思議な話を聞いたら、なお一層見たくなった。御飯はお手料理で御馳走《ごちそう》になろうが、お杯には及ばん、第一、知ってる通り、一滴も飲めやせん。
晃 成程、そうか、夜叉ヶ池を見に来たんだ。……明日《あした》にしては、と云うんだけれども、道は一里余り、が、上りが嶮《けわ》しい。この暑さでは夜が可《い》い。しかし、四五日は帰さんから、明日の晩にしてくれないかい。
学円 いや、学校がある。これでも学生の方ではないから勝手に休めん。第一、遊び過ぎて、もう切詰めじゃ。
晃 それは困った、学校は?……先刻《さっき》、落着く先は京都だと云ったようだな。
学円 むむ、去年から。……みやづかえの情《なさけ》なさじゃ。何しろ、急ぐ。
晃 分った、では案内かたがた一所に行く。
学円 君も。
晃 ……直ぐに出掛けよう。
学円 それだと、奥方に済まんぞ。
晃 何を詰《つま》らない。
百合 いいえ……(と云いしがしおし
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