りおっしゃる。(と優しく睨《にら》んで顔を隠す。)
学円 何にしろ、お睦《むつま》じい……ははははは、勝手にお噂《うわさ》をしましたが、何は、お里方、親御、御兄弟は?
晃 山沢、何にもない孤児《みなしご》なんだ。鎮守の八幡《はちまん》の宮の神官《かんぬし》の一人娘で、その神官の父親《おとっ》さんも亡くなった。叔父があって、それが今、神官の代理をしている。……これの前だが、叔父というのは、了簡《りょうけん》のよくない人でな。
学円 それはそれは。
晃 姪《めい》のこれを、附けつ廻しつしたという大難ぶつです。
百合 ほんとうに、たよりのない身体《からだ》でございます。何にも存じません、不束《ふつつか》ものでございますけれど、貴客《あなた》、どうぞ御ふびんをお懸けなすって下さいまし。(しんみりと学円に向って三指《みつゆび》して云う。)
学円 (引き入れられて、思わず涙ぐむ。)御殊勝ですな。他人のようには思いません。
晃 (同じく何となく胸せまる。涙を払って)さあさあ、親類というお言葉なんだ。遠慮のない処、何にも要らん。御吹聴《ごふいちょう》の鴫焼《しぎやき》で一杯つけな。これからゆっくり話す
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