き、折り返して1字下げ]
晃 君に背中を敲《たた》かれて、僕の夢が覚めた処で、東京に帰るかって憂慮《きづか》いなんです。
学円 (お百合の優しさに、涙もろく、ほろりとしながら)いや、私《わし》の顔を見たぐらいで、萩原――この夢は覚めんじゃろう。……何、いい夢なら、あえて覚めるには及ばんのじゃ……しかし萩原、夢の裡《うち》にも忘れまいが、東京の君の内では親御はじめ、
晃 むむ。
学円 君の事で、多少、それは、寿命は縮められたか分らんが、皆まず御無事じゃ。
晃 ああ、そうか。難有《ありがた》い。
学円 私《わし》に礼には及ばない。
晃 実に済まん!
学円 さてこれはどうしたわけじゃ。
晃 夢だと思って聞いてくれ。
学円 勿論、夢だと思うておる。……
晃 委《くわ》しい事は、夜すがらにも話すとして、知ってる通り……僕は、それ諸国の物語を聞こうと思って、北国筋を歩行《ある》いたんだ。ところが、自身……僕、そのものが一条《ひとくだり》の物語になった訳だ。――魔法つかいは山を取って海に移す、人間を樹にもする、石にもする、石を取って木《こ》の葉にもする。木の葉を蛙《かえる》にもするという、……君もこ
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