先刻《さっき》からの様子でもそう思うた、けれども、余り思掛けなし――(引返して框《かまち》に来《きた》り)第一、その頭はどうしたい。
晃 頭もどうかしていると思って、まあ、許して上ってくれ。
学円 埃《ほこり》ばかりじゃ、失敬するぞ、(と足を拭《ふ》いたなりで座に入る)いや、その頭も頭じゃが、白髪はどうじゃ、白髪はよ?……
晃 これか、谷底に棲《す》めばといって、大蛇《うわばみ》に呑まれた次第《わけ》ではない、こいつは仮髪《かつら》だ。(脱いで棄てる。)
学円 ははあ……(とお百合を密《そっ》と見て)勿論じゃな、その何も……
晃 こりゃ、百合と云う。
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お百合、座に直った晃の膝に、そのまま俯伏《うっぷ》して縋《すが》っている。
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学円 お百合さんか。細君も……何、奥方も……
晃 泣く奴があるか、涙を拭いて、整然《ちゃん》として、御挨拶《ごあいさつ》しな。
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と言ううちに、極《きま》り悪そうに、お百合は衝《つ》と納戸へかくれる。
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