まるで衣類がない。――これが寒中だと、とうの昔凍え死んで、こんな口を利くものは、貴方がたの前に消えてしまっていたんでしょうね。
男はまだしも、婦《おんな》もそれです。ご新姐《しんぞ》――いま時、妙な呼び方で。……主人が医師《いしゃ》の出来損いですから、出来損いでも奥さん。……さしあたってな小博打《こばくち》が的《あて》だったのですから、三下《さんした》の潜《もぐ》りでも、姉さん。――話のついでですが、裸の中の大男の尻の黄色なのが主人で、汚れた畚褌《もっこふんどし》をしていたのです、褌が畚じゃ、姉《あね》ごとは行きません。それにした処で、姉《あね》さんとでも云うべき処を、ご新姐――と皆が呼びましたのは。――
万世橋向うの――町の裏店《うらだな》に、もと洋服のさい取を萎《なや》して、あざとい碁会所をやっていた――金六、ちゃら金という、野幇間《のだいこ》のような兀《はげ》のちょいちょい顔を出すのが、ご新姐、ご新姐という、それがつい、口癖になったんですが。――膝股《ひざもも》をかくすものを、腰から釣《つる》したように、乳を包んだだけで。……あとはただ真白《まっしろ》な……冷い……のです。冷
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