ぼさつ》に参らする――ですか。とぼけていて、ちょっと愛嬌《あいきょう》のあるものです。ほんの一番だけ、あつきあい下さいませんか。」
 こう、つれに誘われて、それからの話である。「蛸とくあのくたら。」しかり、これだけに対しても、三百三もんがほどの価値《ねうち》をお認めになって、口惜《くやし》い事はあるまいと思う。
 つれは、毛利|一樹《いちじゅ》、という画工《えかき》さんで、多分、挿画家《そうがか》協会会員の中に、芳名が列《つらな》っていようと思う。私は、当日、小作《しょうさく》の挿画《さしえ》のために、場所の実写を誂《あつら》えるのに同行して、麻布我善坊《あざぶがぜんぼう》から、狸穴《まみあな》辺――化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。が、憚《はばか》りながらそうではない。我ながらちょっとしおらしいほどに思う。かつて少年の頃、師家の玄関番をしていた折から、美しいその令夫人のおともをして、某子爵家の、前記のあたりの別荘に、栗を拾いに来た。拾う栗だから申すまでもなく毬《いが》のままのが多い。別荘番の貸してくれた鎌で、山がかりに出来た庭裏の、まあ、谷間で。御存じでもあろうが
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