子で、近頃はただ一攫千金《いっかくせんきん》の投機を狙《ねら》っています。一人は、今は小使を志願しても間に合わない、慢性の政治狂と、三個《さんにん》を、紳士、旦那、博士に仕立てて、さくら、というものに使って、鴨を剥《はい》いで、骨までたたこうという企謀《たくらみ》です。
 前々から、ちゃら金が、ちょいちょい来ては、昼間の廻燈籠《まわりどうろう》のように、二階だの、濡縁《ぬれえん》だの、薄羽織と、兀頭《はげあたま》をちらちらさして、ひそひそと相談をしていましたっけ。
 当日は、小僧に一包み衣類を背負《しょ》わして――損料です。黒絽《くろろ》の五つ紋に、おなじく鉄無地のべんべらもの、くたぶれた帯などですが、足袋まで身なりが出来ました。そうは資本《もとで》が続かないからと、政治家は、セルの着流しです。そのかわり、この方は山高帽子で――おやおや忘れた――鉄無地の旦那に被《かぶ》せる帽子を。……そこで、小僧のを脱がせて、鳥打帽です。
 ――覚えていますが、その時、ちゃら金が、ご新姐に、手づくりのお惣菜、麁末《そまつ》なもの、と重詰の豆府滓《とうふがら》、……卯《う》の花を煎《い》ったのに、繊《せん》の生姜《しょうが》で小気転を利かせ、酢にした※[#「魚+是」、第4水準2−93−60]鰯《しこいわし》で気前を見せたのを一重。――きらずだ、繋《つな》ぐ、見得《けんとく》がいいぞ、吉左右《きっそう》! とか言って、腹が空《す》いているんですから、五つ紋も、仙台|平《ひら》も、手づかみの、がつがつ喰《ぐい》。……
 で、それ以来――事件の起りました、とりわけ暑い日になりますまで、ほとんど誰も腹に堪《たま》るものは食わなかったのです。――……つもっても知れましょうが、講談本にも、探偵ものにも、映画にも、名の出ないほどの悪徒なんですから、その、へまさ加減。一つ穴のお螻《けら》どもが、反対に鴨にくわれて、でんぐりかえしを打ったんですね。……夜になって、炎天の鼠《ねずみ》のような、目も口も開かない、どろどろで帰って来た、三人のさくらの半間さを、ちゃら金が、いや怒るの怒らないの。……儲けるどころか、対手方《あいてかた》に大分の借《かり》が出来た、さあどうする。……で、損料……立処《たちどころ》に損料を引剥《ひっぱ》ぐ。中にも落第の投機家なぞは、どぶつで汗ッかき、おまけに脚気《かっけ》を煩ってい
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