其《その》姫樣《ひいさま》の帶《おび》を銜《くは》へたり、八《や》ツ口《くち》をなめたりして、落着《おちつ》いた風《ふう》でじやれてゐるのを、附添《つきそひ》が、つと見《み》つけて、びツくりして、叱《しつ》! といつて追《お》ひやつた。其《それ》は可《い》い、其《それ》は可《い》いけれど、犬《いぬ》だ。
 悠々《いう/\》と迷兒《まひご》のうしろへいつて、震《ふる》へて居《ゐ》るものを、肩《かた》の處《ところ》ぺろりとなめた。のはうづに大《おほ》きな犬《いぬ》なので、前足《まへあし》を突張《つツぱ》つて立《た》つたから、脊《せ》は小《ちつ》ぽけな、いぢけた、寒《さむ》がりの、ぼろツ兒《こ》より高《たか》いので、いゝ氣《き》になつて、垢染《あかじ》みた襟《えり》の處《ところ》を赤《あか》い舌《した》の長《なが》いので、ぺろりとなめて、分《わか》つたやうな、心得《こゝろえ》てゐるやうな顏《かほ》で、澄《すま》した風《ふう》で、も一《ひと》つやつた。
 迷兒《まひご》は悲《かなし》さが充滿《いつぱい》なので、そんなことには氣《き》がつきやしないんだらう、巡査《じゆんさ》にすかされて、泣《な》
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