「え、お前《まへ》、巾着《きんちやく》でも着《つ》けてありやしないのかね。」
と一人《ひとり》が踞《つくば》つて、小《ちひ》さいのが腰《こし》を探《さぐ》つたがない。ぼろを着《き》て居《ゐ》る、汚《きたな》い衣服《きもの》で、眼垢《めあか》を、アノせつせと拭《ふ》くらしい、兩方《りやうはう》の袖《そで》がひかつてゐた。
「仕樣《しやう》がないのね、何《なん》にもありやしないんですよ。」
傍《そば》に居《ゐ》た肥《ふと》つたかみさんが大《おほ》きな聲《こゑ》で、
「馬鹿《ばか》にしてるよ、こんな兒《こ》にお前《まへ》さん、札《ふだ》をつけとかないつて奴《やつ》があるもんか。うつかりだよ、眞個《ほんたう》にさ。」
とがむしやら[#「がむしやら」に傍点]なものいひで、叱《しか》りつけたから吃驚《びつくり》して、わツといつて泣《な》き出《だ》した。何《なに》も叱《しか》りつけなくツたつてよささうなもんだけれど、蓋《けだ》し敢《あへ》てこの兒《こ》を叱《しか》つたのではない。可愛《かはい》さの餘《あま》り其《その》不注意《ふちうい》なこの兒《こ》の親《おや》が、恐《おそろ》しくかみさんの
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