位《ちよつとぐらゐ》では眼《め》が屆《とゞ》かない。頤《おとがひ》をすくつて、身《み》を反《そら》して、ふッさりとある髮《かみ》が帶《おび》の結目《むすびめ》に觸《さは》るまで、いたいけな顏《かほ》を仰向《あふむ》けた。色《いろ》の白《しろ》い、うつくしい兒《こ》だけれど、左右《さいう》とも眼《め》を煩《わづら》つて居《ゐ》る。細《ほそ》くあいた、瞳《ひとみ》が赤《あか》くなつて、泣《な》いたので睫毛《まつげ》が濡《ぬ》れてて、まばゆさうな、その容子《ようす》ッたらない、可憐《かれん》なんで、お孝《かう》は近《ちか》づいた。
「一體《いつたい》何處《どこ》の兒《こ》でございませう。方角《はうがく》も何《なに》も分《わか》らなくなつたんだよ。仕樣《しやう》がないことね、ねえ、お前《まへ》さん。」
 と長屋《ながや》ものがいひ出《だ》すと、すぐ應《おう》じて、
「ちつとも此邊《このへん》ぢやあ見掛《みか》けない兒《こ》ですからね、だつて、さう遠方《ゑんぱう》から來《く》るわけはなしさ、誰方《どなた》か御存《ごぞん》じぢやありませんか。」
 誰《たれ》も知《し》つたものは居《ゐ》ないらしい。
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