》て、顏《かほ》を赤《あか》くして、
「私《わたし》が、あの、さがしますから。」
と、口《くち》の中《うち》でいふとすぐ抱《だ》いた。下駄《げた》の泥《どろ》が帶《おび》にべつたりとついたのも構《かま》はないで、抱《だ》きあげて、引占《ひきし》めると、肩《かた》の處《ところ》へかじりついた。
ぐるツと取卷《とりま》かれて恥《はづか》しいので、アタフタし、駈《か》け出《だ》したい位《くらゐ》急足《いそぎあし》で踏出《ふみだ》すと、おもいもの抱《だ》いた上《うへ》に、落着《おちつ》かないからなりふり[#「なりふり」に傍点]を失《うしな》つた。
穿物《はきもの》の緒《を》が弛《ゆる》んで居《ゐ》たので踏返《ふみかへ》してばつたり横《よこ》に轉《ころ》ぶと姿《すがた》が亂《みだ》れる。
皆《みんな》で哄《どつ》と笑《わら》つた。お孝《かう》は泣《な》き出《だ》した。
[#地より5字上げ]明治三十年八月
底本:「鏡花全集 巻二十七」岩波書店
1942(昭和17)年10月20日第1刷発行
1988(昭和63)年11月2日第3刷発行
※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。
入力:門田裕志
校正:米田進
2002年4月24日作成
2003年5月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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