《まうつむ》けに流《なが》れ來《き》しが、あはよく巖《いは》に住《とゞ》まりて、一瀬《ひとせ》造《つく》れる件《くだん》の石《いし》に、はた其《そ》の桂《かつら》の枝《えだ》まつはりたるに、衣《ころも》の裾《すそ》を卷《ま》き込《こ》まれ、辛《から》くも其《そ》の身《み》をせき留《と》めつ。恰《あたか》もよし横《よこ》ざまに崖《がけ》を生《お》ひ出《い》でて、名《な》を知《し》らぬ花《はな》咲《さ》きたる、樹《き》の枝《えだ》に縋《すが》りつも、づぶ濡《ぬ》れのまゝ這《は》ひ上《あが》りし、美《うつく》しき男《をとこ》なれば、これさへ水《みづ》の垂《た》るばかり。草《くさ》をつかみ、樹《き》を辿《たど》りて、次第《しだい》に上《そら》へ攀上《よぢのぼ》る。雫《しづく》の餘波《あまり》、蔓《つる》にかゝりて、玉《たま》の簾《すだれ》の靡《なび》くが如《ごと》く、頓《やが》てぞ大木《たいぼく》を樹上《きのぼ》つて、梢《こずゑ》の閨《ねや》を探《さぐ》り得《え》しが、鶴《つる》が齊眉《かしづ》く美女《たをやめ》と雲《くも》の中《なか》なる契《ちぎり》を結《むす》びぬ。
里《さと》の言葉《こ
前へ
次へ
全9ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング