《のち》國《くに》を傾《かたむ》くる憂《うれひ》もやとて、當時《たうじ》國中《こくちう》に聞《きこ》えたる、道人《だうじん》何某《なにがし》を召出《めしいだ》して、近《ちか》う、近《ちか》う、爾《なんぢ》よく此《こ》の可愛《かはゆ》きものを想《さう》せよ、と仰《おほ》せらる。名道人《めいだうじん》畏《かしこま》り、白《しろ》き長《なが》き鬚《ひげ》を撫《な》で、あどなき顏《かほ》を仰向《あふむ》けに、天眼鏡《てんがんきやう》をかざせし状《さま》、花《はな》の莟《つぼみ》に月《つき》さして、雪《ゆき》の散《ち》るにも似《に》たりけり。
やがて退《しさ》りて、手《て》を支《つか》へ、は、は、申上《まをしあ》げ奉《たてまつ》る。應《おう》、何《なん》とぢや、とお待兼《まちか》ね。名道人《めいだうじん》謹《つゝし》んで、微妙《いみじ》うもおはしまし候《さふらふ》ものかな。妙齡《としごろ》に至《いた》らせ給《たま》ひなば、あはれ才徳《さいとく》かね備《そな》はり、希有《けう》の夫人《ふじん》とならせ給《たま》はん。即《すなは》ち、近《ちか》ごろの流行《りうかう》の良妻賢母《りやうさいけんぼ》に
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