有り無しで、客の分隔《わけへだて》をするような人ではないから――直接《じか》にお話しなすって、御縁があれば纏《まとま》る分。心に潔しとしない事に、名刺一枚御荷担は申兼ぬる、と若武者だけに逸《はや》ってかかると、その分は百も合点《がってん》で、戦場往来の古兵《ふるつわもの》。
 取りあえず、スースーと歯をすすって、ニヤニヤと笑いかけて、何か令嬢お身の上に就いて、下聴《したぎき》をするのが、御賛成なかったとか申すことでごわりましたな。御説に因れば、好いた女なら娼妓《じょろう》でも(と少しおまけをして、)構わん、死なば諸共にと云う。いや、人生意気を重んず、(ト歯をすすって)で、ごわりまするが、世間もあり親もあり……
 とこれから道学者の面目を発揮して、河野のためにその理想の、道義上完美にして非難すべき点の無いのを説くこと数千言。約半日にして一先ず日暮前に立帰った。ざっと半日居たけれども、飯時を避けるなぞは、さすがに馴れたものである。

       二十五

 客が来れば姿を隠すお蔦が内に居るほどで、道学先生と太刀打して、議論に勝てよう道理が無い。主税の意気ずくで言うことは、ただ礼之進の歯で
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