むきだ》しにして河野家に御覧に入れるのは、平相国清盛に招かれて月が顔を出すようなものよ。」といささか云い得て濃い煙草を吻《ほっ》と吐《つ》いたは、正にかくのごとく、山の端《は》の朧気《おぼろげ》ならん趣であった。
「なら可い、君に聞かんでも余処《わき》で聞くよ。」
と案外また英吉は廉立《かどだ》った様子もなく、争や勝てりの態度で、
「しかし縁起だ、こりゃ一本貰って行くよ。妙子が御持参の花だから、」
「…………」
「君がどうと云う事も無いのなら、一本二本惜むにゃ当るまい、こんなに沢山あるものを、」
「…………」
「失敬、」
あわや抜き出そうとする。と床しい人香が、はっと襲って、
「不可《いけ》ませんよ。」と半纏の襟を扱《しご》きながら、お蔦が襖《ふすま》から、すっと出て、英吉の肩へ手を載せると、蹌踉《よろ》けるように振向く処を、入違いに床の間を背負《しょ》って、花を庇《かば》って膝をついて、
「厭ですよ、私が活けたのが台なしになります。」
と嫣然《えんぜん》として一笑する。
「だって、だって君、突込んであるんじゃないか、池の坊も遠州もありゃしない。ちっとぐらい抜いたって、あえてお手
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