文学者酒井俊蔵先生の令嬢に対して、身の程も弁えず、無礼を仕《つかまつ》りました申訳が無い、とお詫びなさい。
そうすりゃ大概、河野家は支離滅裂、貴下のいわゆる家族主義の滅亡さ。そこで敗軍した大将だ。貴下は安東村の貞造の馬小屋へでも引込《ひっこ》むんだ。ざっと、まあ、これだけさ。」
と帽子で、そよそよと胸を煽《あお》いだ。
時に蝕しつつある太陽を、いやが上に蔽《おお》い果さんずる修羅の叫喚《さけび》の物凄《ものすさまじ》く響くがごとく、油蝉の声の山の根に染み入る中に、英臣は荒らかな声して、
「発狂人!」
「ああ、狂人《きちがい》だ、が、他《ほか》の気違は出来ないことを云って狂うのに、この狂気《きちがい》は、出来る相談をして澄ましているばかりなんだよ。」
舌もやや釣る、唇を蠢《うごめ》かしつつ、
「で、私《わし》がその請求を肯《き》かんけりゃ、汝《きさま》、どうすッとか言うんじゃのう。」と、太息を吐《つ》いたのである。
「この毒薬の瓶をもって、ちと古風な事だけれど、恐れながらと、遣《や》ろうと云うのだ。それで大概、貴下の家は寂滅でしょうぜ。」
英臣は辛うじて罵《ののし》り得た。
「
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