目を開《あ》きなよ、しっかりしな、己だ、分ったか、ああ先生だよ。皆《みんな》居る、妙も来ている。姉さん――小芳か、あすこに居るよ。
なぜ、お前は気を長くして、早瀬が己ほどの者になるのを待たん、己でさえ芸者の情婦《いろ》は持余しているんだ、世の中は面倒さな。
あの腰を突けばひょろつくような若い奴が、お前を内へ入れて、それで身を立って行かれるものか。共倒れが不便《ふびん》だから、剣突《けんつく》を喰わしたんだが、可哀相に、両方とも国を隔って煩らって、胸一つ擦《さす》って貰えないのは、お前たち何の因果だ。
さぞ待っているだろうな、早瀬の来るのを。あれが来るから、と云って、お前、昨夜《ゆうべ》髪を結《い》ったそうだ。ああ、島田が好《よ》く出来た、己が見たよ。」
と云う時、次の室《ま》で泣音《なくね》がした。続いてすすり泣く声が聞えたが、その真先《まっさき》だったのは、お蔦のこれを結った、髪結のお増であった。芸妓《げいこ》島田は名誉の婦《おんな》が、いかに、丹精をぬきんでたろう。
上らぬ枕を取交えた、括蒲団《くくりぶとん》に一《いち》が沈んで、後毛《おくれげ》の乱れさえ、一入《ひとしお
前へ
次へ
全428ページ中388ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング