白衣が、さらりと消えて、壇に沈む。
四十四
寝台《ねだい》に沈んだ病人の顔の色は、これが早瀬か、と思うほどである。
道子は雪洞を裾に置いて、帯のあたりから胸を仄《ほの》かに、顔を暗く、寝台に添うて彳《たたず》んで、心《しん》を細めた洋燈《ランプ》のあかりに、その灰のような面《おもて》を見たが、目は明かに開いていた。
ト思うと、早瀬に顔を背けて、目を塞いだが、瞳は動くか、烈しく睫毛《まつげ》が震えたのである。
ややあって、
「早瀬さん、私が分りますか。」
「…………」
「ようよう今日のお昼頃から、あの、人顔がお分りになるようにおなんなさいましたそうでございますね。」
「お庇様《かげさま》で。」
と確《たしか》に聞えた。が、腹でもの云うごとくで、口は動かぬ。
「酷《ひど》いお熱だったんでございますのねえ。」
「看護婦に聞きました。ちょうど十日間ばかり、全《まる》ッきり人事不省で、驚きました。いつの間にか、もう、七月の中旬《なかば》だそうで。」と瞑《ねむ》ったままで云う。
「宅では、東京の妹たちが、皆《みんな》暑中休暇で帰って参りました。」
少し枕を動かして
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