、ややあって、遥かに暗い裏階子《うらばしご》へ消える筈《はず》のが、今夜は廊下の真中《まんなか》を、ト一列になって、水彩色《みずさいしき》の燈籠の絵の浮いて出たように、すらすらこなたへ引返《ひっかえ》して来て、中程よりもうちっと表階子へ寄った――右隣が空いた、富士へ向いた病室の前へ来ると、夫人は立留って、白衣は左右に分れた。
 順に見舞った中に、この一室だけは、行きがけになぜか残したもので。……
 と見ると胡粉《ごふん》で書いた番号の札に並べて、早瀬主税と記してある。
 道子は間《なか》に立って、徐《おもむろ》に左右を見返り、黙って目礼をして、ほとんど無意識に、しなやかな手を伸ばすと、看護婦の一人が、雪洞を渡して、それは両手を、一人は片手を、膝のあたりまで下げて、ひらりと雪の一団《ひとかたまり》。
 ずッと離れて廊下を戻る。
 道子は扉《ドア》に吸込まれた。ト思うと、しめ切らないその扉の透間から、やや背屈《せかが》みをしたらしい、低い処へ横顔を見せて廊下を差覗《さしのぞ》くと、表階子の欄干《てすり》へ、雪洞を中にして、からみついたようになって、二人|附着《くッつ》いて、こなたを見ていた
前へ 次へ
全428ページ中378ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング