、慈母、淑女、そんな者があるものか。」
「じゃ……私を、」
 と擦寄って、
「不埒と言わないばッかりね。」
 さすがに顔の色をかえて屹《きっ》と睨《にら》むと、頷《うなず》いて、
「同時に私だって、」
 と笑って言う。
 その肩を突いて、
「まあ、仕ようの無い我儘《わがまま》だよ。」

       三十九

「貴下は始めからそうなんだわ。……
 道学者の坂田(アバ大人)さんが、兄さんの媒口《なこうどぐち》を利くのが癪《しゃく》に障るからって、(攫徒《すり》の手つだいをして、参謀本部も諭旨免官になりました。攫徒は、その時の事を恩にして、警察では、知らない間に袂《たもと》へ入れて置いて逆捩《さかねじ》を食わしたように云ってくれたけれど、その実は、知っていて攫徒の手から紙入を受取ってやったんだ。それで宜《よろ》しくばお稽古にお出でなさい、早瀬主税は攫徒の補助をした東京の食詰者《くいつめもの》です。)とこの塾を開く時、千鳥座かどこかで公衆に演説をする、と云った人だもの――私が留めたから止したけれど……」
 早瀬の胸のあたりに、背向《うしろむ》きになって、投げ出した褄《つま》を、熟《じっ》と見
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