河野さんは、お家が医者だから。……そうでないと、大抵九月児は育たんものだと申します。また旧弊な連中《れんじゅう》は、戦争で人が多く死んだから、生れるのが早い、と云ったそうです。
名誉に、とお思いなすったか、それとも最初《はじめて》の御出産で、お喜びの余りか、英臣さんは現に貴女の御父上《おとうさん》だ。
貞造は、無事に健かに産れた児の顔を一目見ると、安心をして、貴女の七夜の御祝いに酔ったのがお残懐《なごり》で、お暇を頂いて、お邸を出たんです。
朝晩お顔を見ていちゃ、またどんな不了簡《ふりょうけん》が起るまいものでもない、という遠慮と、それに肺病の出る身体《からだ》、若い内から僂麻質《リョウマチス》があったそうで。旁々《かたがた》お邸を出るとなると、力業《ちからわざ》は出来ず、そうかと云って、その時分はまだ達者だった、阿母《おふくろ》を一人養わなければならないもんですから、奥さんが手切《てぎれ》なり心着《こころづけ》なり下すった幾干《いくら》かの金子《かね》を資本《もとで》にして、初めは浅間の額堂裏へ、大弓場を出したそうです。
幸い商売が的に当って、どうにか食って行かれる見込みのつ
前へ
次へ
全428ページ中341ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング