ましょう。」
瞳も離さないで視めたお妙が、後馳《おくれば》せに会釈して、
「そう、でも、あの、誰方かおいででしょう。内へ来て貰うんじゃないの。私が結って欲しいのよ。どうせ、こんなのですから、」
と指でも圧《おさ》えず、惜気《おしげ》なく束髪の鬢《びん》を掉《ふ》って、
「お師匠さんでなくっても可《い》いんです。お弟子さんがお在《いで》なら、ちょいと結んで下さいな。」
縋《すが》って頼むように仇《あど》なく云って、しっかり格子に掴《つか》まって、差覗きながら、
「小母さんでも可いわ。」
我を(小母さん)にして髪を結って、と云われたので、我ながら忘れたように、心から美しい笑顔になって、
「貴嬢、まあ、どちらから。あの、御近所でいらっしゃいますか。」
「いいえ、遠いのよ。」
「お遠うございますか。」
「本郷だわ。」
「ええ、」
「私ねえ、本郷のねえ、酒井と云うの。」
「お嬢様、まあ、」
と土間に一足おろしさまに、小芳は、急いで框から開ける手が、戸に掴まったお妙の指を、中から圧《おさ》えたのも気が附かぬか、駒下駄《こまげた》の先を、逆《さかさ》に半分踏まえて、片褄蹴出《かたづまけだ》
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