結ってやって、お世辞にも誉められた覚えがある。出来ないことはありますまい、親もなし、兄弟もなし、行く処と云えば元の柳橋の主人の内、それよりは肴屋《さかなや》へ内弟子に入って当分|梳手《すきて》を手伝いましょう。……何も心まかせ、とそれに極《き》まった。この事は、酒井先生も御承知で、内証《ないしょう》で飯田町の二階で、直々《じきじき》に、お蔦に逢って下すって、その志の殊勝なのに、つくづく頷《うなず》いて、手ずから、小遣など、いろいろ心着《こころづけ》があった、と云う。
それぎり、顔も見ないで、静岡へ引込《ひっこ》むつもりだったが、め[#「め」に傍点]組の惣助の計らいで、不意に汽車の中で逢って、横浜まで送る、と云うのであった。ところが終列車で、浜が留まりだったから、旅籠《はたご》も人目を憚《はばか》って、場末の野毛の目立たない内へ一晩泊った。
(そんな時は、)
と酔っていた夫人が口を挟んで、顔を見て笑ったので、しばらくして、
(背中合わせで、別々に。)
翌日、平沼から急行列車に乗り込んで、そうして夫人《あなた》に逢ったんだと。……
うつらうつら
十八
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