の下へ横《よこた》えると、惜げもなく、髪で、件《くだん》の暖簾を分けて、隣の紺屋の店前《みせさき》へ顔を入れた。
「御免なさいよ、御隣家《おとなり》の屋《いえ》を借りたいんですが、」
「何でございますと、」
と、頓興《とんきょう》な女房の声がする。
「家賃は幾干《いくら》でしょうか。」
「ああ、貞造さんの家《うち》の事かね。」
余り思切った夫人の挙動《ふるまい》に、呆気《あっけ》に取られて茫然とした主税は、(貞造。)の名に鋭く耳をそばだてた。
「空家ではござりませぬが。」
「そう、空家じゃないの、失礼。」
と肩の暖簾をはずして出たが、
「大照れ、大照れ、」
と言って、莞爾《にっこり》して、
「早瀬さん、」
「…………」
「人のことを、貴族的だなんのって、いざ、となりゃ私だって、このくらいな事はして上げるわ。この家《うち》じゃ、貴下だって、借りたいと言って聞かれないでしょう。ちょいと、これでも家の世話が私にゃ出来なくって?」
さすがに夫人もこれは離れ業《わざ》であったと見え、目のふちが颯《さっ》となって、胸で呼吸《いき》をはずませる。
その燃ゆるような顔を凝《じっ》と見て、や
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