ってならない処。夫が旅行で多日《しばらく》留守、この時こそと思っても、あとを預っている主婦《あるじ》ならなおの事、実家《さと》の手前も、旅をかけては出憎いから、そこで、盲目《めくら》の娘をかこつけに、籠を抜けた。親鳥も、とりめにでもならなければ可い、小児の罰が当りましょう、と言って、夫人は快活に吻々《ほほ》と笑う。
この談話は、主税が立続けに巻煙草を燻《くゆ》らす間に、食堂と客室とに挟まった、その幅狭な休憩室に、差向いでされたので。
椅子と椅子と間が真《まこと》に短いから、袖と袖と、むかい合って接するほどで、裳《もすそ》は長く足袋に落ちても、腰の高い、雪踏《せった》の尖《さき》は爪立《つまた》つばかり。汽車の動揺《どよ》みに留南奇《とめき》が散って、友染の花の乱るるのを、夫人は幾度《いくたび》も引かさね、引かさねするのであった。
主税はその盲目の娘《こ》と云うのを見た。それは、食堂からここへ入ると、突然《いきなり》客室の戸を開けようとして男の児《こ》が硝子扉《がらすど》に手をかけた時であった。――銀杏返《いちょうがえ》しに結った、三十四五の、実直らしい、小綺麗な年増が、ちょうど腰
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