の化粧料があるから、天のなせる麗質に、紅粉の装《よそおい》をもってして、小遣が自由になる。しかも御衣勝《おんぞがち》の着痩《きやせ》はしたが、玉の膚《はだえ》豊かにして、汗は紅《くれない》の露となろう、宜《むべ》なる哉《かな》、楊家《ようか》の女《じょ》、牛込南町における河野家の学問所、桐楊《とうよう》塾の楊の字は、菅子あって、択《えら》ばれたものかも知れぬ。で、某女学院出の才媛である。
 当時、女学校の廊下を、紅色の緒のたった、襲裏《かさねうら》の上穿《うわばき》草履で、ばたばたと鳴らしたもので、それが全校に行われて一時《ひとしきり》物議を起した。近頃静岡の流行は、衣裳も髪飾もこの夫人と、もう一人、――土地随一の豪家で、安部川の橋の袂《たもと》に、大巌山《おおいわやま》の峰を蔽《おお》う、千歳の柳とともに、鶴屋と聞えた財産家が、去年東京のさる華族から娶《めと》り得たと云う――新夫人の二人が、二つ巴《ともえ》の、巴川に渦を巻いて、お濠《ほり》の水の溢《あふ》るる勢《いきおい》。
「ちっとも存じませんで、失礼を。貴女、英吉君とは、ちっとも似ておいでなさらないから勿論気が着こう筈《はず》が
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