彼地《あちら》の文学のお話ででもございましたんですか。」
「どういたしまして、」
 と青年はいよいよ弱って、
「人を見て法を説けは、外国人も心得ているんでしょう。僕の柄じゃ、そんな貴女《あなた》、高尚な話を仕かけッこはありませんが、妙なことを云っていましたよ。はあ、来年の事を云っていました。西洋じゃ、別に鬼も笑わないと見えましてね。」
「来年の、どんな事でございます。」
「何ですって、今年は一度国へ帰って来年出直して来る、と申すことです。(日蝕《にっしょく》があるからそれを見にまた出懸ける、東洋じゃほとんど皆既蝕《かいきしょく》だ。)と云いましたが、まだ日本には、その風説《うわさ》がないようでございますね。
 有っても一向|心懸《こころがけ》のございません僕なんざ、年の暮に、太神宮から暦の廻りますまでは、つい気がつかないでしまいます。もっとも東洋とだけで、支那《しな》だか、朝鮮だか、それとも、北海道か、九州か、どこで観ようと云うのだか、それを聞き懸《かけ》た処へ、貴女が食堂へ入っておいでなさいましたもんですから、(や、これは日蝕どころじゃない。)と云いましたよ。」
「じゃ、あとは、私を
前へ 次へ
全428ページ中226ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング