つ》かず、
「それからね、人を馬鹿にしゃあがった、その痘痕《あばた》めい、差配《おおや》はどこだと聞きゃあがる。差配様《おおやさん》か、差配様は此家《ここ》の主人《あるじ》が駈落をしたから、後を追っかけて留守だ、と言ったら、苦った顔色《がんしょく》をしやがって、家賃は幾干《いくら》か知らんが、前《ぜん》にから、空いたら貸りたい、と思うておったんじゃ、と云うだろうじゃねえか。お前《め》さん、我慢なるめえじゃねえかね。こう、可い加減にしねえかい。柳橋の蔦吉さんが、情人《いろ》と世帯を持った家《うち》だ、汝達《てめえたち》の手に渡すもんか。め[#「め」に傍点]組の惣助と云う魚河岸の大問屋《おおどいや》が、別荘にするってよ、五百両敷金が済んでるんだ。帰《けえ》れ、と喚《わめ》くと、驚いて出て行ったっけ、はははは、どうだね、気に入ったろう、先生。」
「悪戯《いたずら》をするじゃないか。」
「だって、お前《め》さん、言種《いいぐさ》が言種な上に、図体が気に食わねえや。しらふの時だったから、まだまあそれで済んだがね。掏摸万歳の時《ころ》で御覧《ごろう》じろ、えて吉、存命は覚束《おぼつか》ねえ。」
前へ
次へ
全428ページ中217ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング