なかった為に、死ぬの、活きるの、と云った例《ためし》はありません。騒動の起るのは、媒酌人なしの内証の奴に極《きま》ったものです。」
「はあ、」
 と云って、道学者は口を開《あ》いて、茫然として酒井の顔を見ていたが、
「しかし、貴下、聞く処に拠《よ》りますると、早瀬子は、何か、芸妓《げいしゃ》風情を、内へ入れておると申すでごわりまするが。」
「さよう、芸妓を入れていて、自分で不都合だと思ったら、妙には指もさしますまい。直ちに河野へ嫁入らせる事に同意をしましょう。それとも内心、妙をどうかしたいというなら、妙と夫婦になる前に、芸妓と二人で、世帯の稽古をしているんでしょう。どちらとも彼奴《あいつ》の返事をお聞き下さい。或《あるい》は、自分、妙を欲しいではないが、他《ほか》なら知らず河野へは嫁《や》っちゃ不可《いか》ん、と云えば、私もお断《ことわり》だ。どの道、妙に惚れてる奴だから、その真実愛しているものの云うことは、娘に取っては、神仏《かみほとけ》の御託宣《おつげ》と同一《おんなじ》です。」
 形勢かくのごとくんば、掏摸の事など言い出したら、なおこの上の事の破れ、と礼之進行詰って真赤《まっか》
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