じゃありませんか。貴下《あなた》は、浅くとも清き流れの方よ。ほんとの歌は柄に無いの。」
 とつけつけ云う。
「いや、恐入りましたよ。(トちょっと額に手を当てて、)先生は?」と更《あらた》めて聞くと、心ありげに頷いて、
「居てよ、二階に。」(おいでなさいな。)を色で云って、臈《ろう》たく生垣から、二階を振仰ぐ。
 主税はたちまち思いついたように、
「お嬢さん、」と云うや否や、蝙蝠傘《こうもりがさ》を投出すごとく、井の柱へ押倒《おったお》して、勢《いきおい》猛に、上衣を片腕から脱ぎかけて、
「久しぶりで、私が洗って差上げましょう。」と、脱いだ上衣を、井戸側へ突込《つっこ》むほど引掛《ひっか》けたと思うと、お妙がものを云う間《ひま》も無かった。手を早や金盥に突込んで、
「貴娘、その房楊枝を。――浅くとも清き流れだ。」

       五十三

「あら、乱暴ねえ。ちょいと、まだ釣瓶から雫《しずく》がするのに、こんな処へ脱ぐんだもの。」
 と躾《たしな》めるように云って、お妙は上衣を引取《ひっと》って、露《あらわ》に白い小腕《こがいな》で、羽二重で結《ゆわ》えたように、胸へ、薄色を抱いたのである
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