いえさ、串戯は止して今のお客は直ぐに南町の家《うち》へ帰りそうな様子でしたかね。」
「むむ、ずッと帰ると言ったっけ。」
「難有《ありがて》え、」
額をびっしゃり。
「後を慕って、おおそうだ、と遣《や》れ。」
「行《ゆ》くのかい、河野さんへ。」
「ちょっぴりね、」
「じゃ可いけれど。貴郎、」
と主税を見て莞爾《にっこり》して、
「めい公がね、また我儘《わがまま》を云って困ったんですよ。お邸風を吹かしたり、お惣菜並に扱うから、河野さんへはもう行かないッて。折角お頼まれなすったものを、貴郎が困るだろうと思って、これから意見をしてやろうと思った処だったのよ。」
「そうか。」
となぜか、主税は気の無い返事をする。
「御覧なさい。そうすると急にあの通り。ほんとうに気が変るっちゃありやしない。まるで猫の目ね。」
「違えねえ、猫の目の犬の子だ。どっこい忙がしい、」
と荷を上げそうにするのを見て、
「待て、待て、」
「沢山よ。貴郎の分は三切あるわ。まだ昨日《きのう》のも残ってるじゃありませんか。めのさん、可いんだよ。この人にね、お前の盤台を覗かせると、皆《みんな》欲《ほし》がるンだから……」
「
前へ
次へ
全428ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング