、と躾《たしな》められそうな処。
そうではなかった。
例《いつも》の通りで、庭へ入ると、母様は風邪が長引いたので、もう大概は快いが、まだちっと寒気がする肩つきで、寝着《ねまき》の上に、縞《しま》の羽織を羽織って、珍らしい櫛巻で、面窶《おもやつ》れがした上に、色が抜けるほど白くなって、品の可いのが媚《なまめ》かしい。
寝床の上に端然《きちん》と坐って、膝へ掻巻《かいまき》の襟をかけて、その日の新聞を読む――半面が柔かに蒲団《ふとん》に敷いている。
これを見ると、どうしたか、お妙は飛石に突据えられたようになって、立留まった。
美しい袂の影が、座敷へ通って、母様は心着いて、
「遅かったね。」
「ええ、お友達と作文の相談をしていたの。」
優しくも教頭のために、腹案があったと見えて、淀みなく返事をしながら、何となく力なさそうに、靴を脱ぎかける処へ、玄関から次の茶の間へ、急いで来た跫音《あしおと》で、襖《ふすま》の外から、書生の声、
「お嬢さんですか、今日の新聞に、切抜きをなすったのは。」
紫
五十二
お茶漬さらさら、大好《だいすき》な鰺《あじ》の新切
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